子どもの近視

子どもの近視

子どもの近視 Q&A

■子どもの近視が増えている

近視とは、黒目(角膜)の頂点から目の底(眼底の網膜)までの長さ、つまり眼球の前後方向の長さ(眼軸)と、角膜や水晶体の屈折力の強さによって、遠方からきた光線が網膜の手前で焦点を結ぶ状態をいいます。このため、遠くの像がぼやけてみえてしまうため、眼鏡による矯正が必要となります。

軸性近視
図:軸性近視

近視は小学校や中学校の世代に眼軸長が伸びることによる軸性近視が多く、眼鏡によって矯正できる単純近視がそのほとんどを占めます。 実際、平成30年度の文部科学省の調査結果をみると、裸眼視力(眼鏡をかけない視力)が1.0未満に低下している割合は、幼稚園26.68%、小学校34.10%、中学校56.04%、高等学校67.23%となっています。 さらに裸眼視力0.3 未満の割合は、幼稚園0.87%、小学校9.28%、中学校25.54%、高等学校39.34%となっていて、小学生の約10人に1人、中学生の4人に1人において、眼鏡をかけない視力の著しい低下がみられます。グラフにもあるように、裸眼視力の低下は右肩上がりに増加していて、この多くが近視によるものと推定されています。

学校保健統計調査(平成30年)

表:学校保健統計調査(平成30年)文部科学省から出典

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近視の原因は?

近視、特に軸性近視の発症には、遺伝的な要因と環境に関わる要因の両方が関与するのではないかといわれています。近視はアジア人に多く、両親、もしくはどちらかの親が近視であればその子どもも近視になりやすいとされています。 環境要因としては近くを長時間見続けていることがリスクとして挙げられ、屋外での活動が少ないことも原因ではないかと指摘されています。
最近は、アジアだけでなく欧米でも若い世代の近視化が進んでおり、スマートフォンやゲーム機器の関与も疑われていますが、現在のところ確実な証拠はありません。

近視への対処法

まず軸性近視がみられる場合には、眼科専門医を受診し、眼鏡をあわせる(眼鏡処方をすること)により、しっかりと子どもが黒板などを見えるようにすること。近視は後に述べる治療をほどこせば、その進行を抑制することは可能とされています。ただ完全にその進行を止めることは困難です。
それでも勉強などで近くを見た後は、調節の緊張をほぐすために遠くを見ることはもちろん、できるだけ屋外活動をしましょう。太陽の下で過ごすことは近視進行の抑制効果があるとされています。昔から言われている「よく遊びよく学べ」は、実際は理にかなっているのかもしれません。当然、ここで言う「遊び」は携帯ゲームによる遊びではありません。

近視の進行抑制の治療について

【オルソケラトロジー】 オルソケラトロジーをご存知でしょうか。ハードコンタクトレンズの1種で、就寝中に装用し、そのコンタクトレンズの形状で角膜をわすかに変形させることにより、近視を“一時的に”矯正する方法です。“一時的に”というのもこのコンタクトレンズの使用を中止すると、しばらくすれば、もとの屈折度にもどるためです。
ところで、2017年にオルソケラトロジーのガイドラインが改定され、それまで使用は適用外とされていた未成年者にも「慎重処方」という条件をつけて、処方が可能となりました。そしてこのオルソケラトロジーには、近視の矯正だけでなく、近視の進行自体を抑制する効果があることが、近年の研究でわかってきました。
この「慎重処方」という規定がありながらも、小学生など低年齢で処方する例は少なくありません。処方と使用に際しては、間違いのない装用目的とその方法,正しいレンズの管理方法と確実な定期検査,重い角膜感染症などの合併症リスクなどについて、使用者と保護者は、カウンセリングを受け、十分に理解する必要があります。もちろん処方する側の眼科医も、十分に知識を持ち理解のうえで処方しなければなりません。

【低濃度アトロピン点眼】 シンガポールで行われた研究で、低濃度のアトロピン点眼治療を行うことにより、子どもの近視進行が抑制された、との報告がありました。これにならって、日本でも同様の研究が行われています。最終的な結果はまだでていませんが、研究をもとに保険適用治療となれば、点眼治療ですので日本でも多くの眼科で導入されるかもしれません。

【低加入度ソフトコンタクトレンズ】 いわゆる遠近両用ソフトコンタクトレンズに近い、加入度のあるソフトコンタクトレンズを装用して近視進行を抑制しようという考えから開発されているコンタクトレンズです。特に日本では、+0.5Dという低加入度のソフトコンタクトレンズを用いて臨床試験が行われました。その結果、子どもにおいて近視進行抑制の効果があったとのことです。もちろん、オルソケラトロジーと同じく、使用方法や管理、安全性について使用者、保護者そして処方する眼科医がともに情報を共有しておく必要があるでしょう。

以上の3つの治療について、現状では未だ一般的に確立した治療とは言えません。ただし、近視治療に関わるエキスパートの眼科医は、その治療について使用者ならびに保護者に詳しく説明し、カウンセリングを経て、それぞれのキャラクターを考慮して適切な治療法を選択されます。時には治療をおすすめしないこともありえます。(当院では、これら治療についてご相談させていただくことは可能ですが、治療の導入には至っておりません。ご了承ください。)
小学校低学年から、近視の治療を始めると効果的ともされています。ただ「眼鏡をかけさせたくない」ためとはいえ、用法を守らず安全性をないがしろにしていると、様々な合併症や副作用などに遭遇する恐れがあります。
近視に関しては、眼科専門医とよく相談し、現状から考えられる適切な対処法を一緒に考えていくことをおすすめします。

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■コロナ禍と子どもの目

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コロナ禍での子どもたちの生活スタイルは?

新型コロナ感染症の最初の波に前後して、学校は休業となり、感染を避けるため、外出自粛が始まりました。その結果、子ども達が外で遊ぶ姿が少なくなりました。その後、子ども達は、放課後や休日などに家で過ごす時間が長くなり、太陽光の下での屋外活動の機会が、少なくなったと言われています。
家で過ごすとなると、子ども達は何をするのでしょう。もちろん感染拡大が懸念されますので、友だちとは通学路でバイバイです。保護者は仕事で外出中のこともあるでしょう。学童保育もありますが、家に帰って「おうち時間」に過ごすことと言えば、スマートフォン、タブレット端末、ポータブルゲーム機などの端末を使い、SNSや動画視聴、ゲームなど、液晶画面とのお付き合い。それらの時間は以前よりも長くなりました。(図1)

SNSの視聴時間

(図1)出典:国立教育政策研究所HP 平成29年度 令和4年度 全国学力・学習状況調査 調査結果資料 を加工して作成

スクリーンタイムと子どもの健康の関係とは

このような日常生活の変化によって、外出する機会は減り、端末を見る時間『スクリーンタイム』が延長することで、端末を見る・使う、また端末に限らず、読書をする、書写などの「近業」の機会や時間が増えることになります。
スクリーンタイムとは、テレビ、パソコン、タブレットやスマートフォン、そしてポータブルゲーム機など、画面の一日の使用時間をいいます。
WHO世界保健機関は、子どもたちにとって適切なスクリーンタイムについて以下の基準を示しています。
■1歳未満 0分
■1歳~2歳まで 60分を超えない
■3歳~4歳まで 60分を超えない

というとても厳しい時間となっています。「スマホ育児」はおすすめできない状況です。では、スクリーンタイムの延長は、子どもたちにどのような影響を及ぼすのでしょう。
2021年のスポーツ庁の調査によると、小学生や中学生の男子女子ともに運動時間の減少やスクリーンタイムの延長があり、男子の方がより目立つ傾向にあります。さらに、スクリーンタイムが長いほど、体力が低下し、肥満傾向になるとの報告もあります。
令和4年度の国公私立全国学力・学習状況調査の結果によると、スマホやタブレットを使って、SNSや動画視聴を長時間続けるほど、学力テストの正答率が下がっています(図2)。
このように屋外に出ず、家などで過ごす時間が増えると、スマホやタブレットに触れる時間が増え、スクリーンタイムは延長し、運動不足や学業の成績に影響することになります。

SNSと全国学力調査結果

(図2)出典:国立教育政策研究所HP 令和4年度 全国学力・学習状況調査 調査結果資料 を加工して作成

スクリーンタイムと近視の関係は?

実のところ、令和4年時点では、「スクリーンタイムの延長が、近視を進ませる」と、言いきるだけのエビデンスレベルの高い論文はほとんどないのが現状です。
一方で、近視の影響因子が、教育であることは確かで、教育を受けるためには「近業」をせねばなりません。そして紙の教科書、プリントが中心だった昭和・平成と違い、令和の時代は、その「近業」に、「タブレット等の端末を見る・使う」が加わりました。

ICT教育と近業

一人一台端末となったGIGAスクール構想に始まるICT教育の本格的な運用は、もう始まっています。ICT教育とは、各種デジタル端末やネットワークなど情報通信技術を活用する教育のことを指します。教育DX(デジタルトランスフォーメーション)のひとつであるデジタル教科書の使用も2024年頃から、オンライン学習の一環として、宿題や連絡帳は、子どもたちが持ち帰る端末を利用することが可能です。
そう、学校でも、家でも(主として公立の学校に通う)児童生徒の多くが端末のスクリーンを見て、勉強などをすることになります。
「学校の端末を見る・使う」+「屋外で遊ばずに家族や自分の端末を使い、つながる・遊ぶ・視聴する」=「スクリーンタイムの延長・近業の増加」
こういう式が成り立つのではないでしょうか。

その解決策は

赤ちゃんや乳幼児の頃から、子育て代わりに使っていたスマホやタブレット。近視が進むからと、突然取り上げても、泣くか怒るか、親のパソコンなどをこっそり見るかなどで、解決にはつながりません。だとすれば、「昼間に屋外で遊ぶ時間を増やす」が合理的です。子どもたちが楽しめる屋外活動が増えれば、学校の端末使用はそのままに、また屋外なので感染リスクは下がり、室内で過ごすよりも快適と言えましょう。

■ 啓発動画から学ぶ目の健康のためのヒント

さて、日本眼科医会は、ICT教育が始まるなかで、子どもたちの目の健康について考える動画『進む近視をなんとかしよう大作戦』を、日本眼科医会YouTubeチャンネルで公開中です(図3)。
ダークヒーロー「近視マン」が、みんなを近視にして学校を支配しようとしています。この動画では、近視になるメカニズムのほか、近視になると、大人になってから緑内障や、網膜剥離、黄斑変性になる割合が、近視のない人たちと比べて高くなることにも触れています。
そして、進む近視をなんとかするために、近視マンに立ち向かうみんなは、3つの大作戦を用意します。そしてその結果はいかに…。続きはYoutubeで。ただし、画面と目の間は、30㎝以上は離し、姿勢正しく見ましょう。

https://www.youtube.com/watch?v=eNz-U3VA3jM

日本眼科医会YouTubeチャンネル

(図3)

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